〝自分たちらしく幸せに暮らせる場所〟でつくる、シンプルで素朴な、こだわりのいなり寿司。

松田駅からほど近く、酒匂川沿いを松田城跡方面に進んだ辺り、落ち着いた住宅街の中に佇んでいる「KRÖKA720」(合同会社空想工房)。毎週日曜の店頭販売と、他の曜日のイベント出店などのスタイルで活動している、こだわりの〝いなり寿司〟専門店です。
オーナーの岡田修明さん・典子さんご夫妻は、もともと都内在住。週末だけでも〝自分たちらしく幸せに暮らせる場所〟で過ごしたい、と松田にやってきました。しばらくは東京の会社に勤めながらの2拠点生活を続けていましたが、コロナ禍に2人とも退職。これを機に、2022年3月、松田の地で「合同会社 空想工房」を立ち上げたのです。
その動機は、〝地域の人とのつながりをつくりたい〟という思いでした。「昔ながらの地域ですし、土日だけの滞在だと、なかなか仲良くなるきっかけがつかめなかったんです。でも飲食をやれば、それを理由に立ち寄ってくれるんじゃないか。その輪が広がっていったり、私たちも仲良くしてもらえたら…と」
〝いなり寿司〟のベースとなるレシピは、なんと、修明さんのお母さんのもの。従来のイメージを覆すシンプルで素朴な味わいは、いなり寿司が苦手だった典子さんも魅了するものでした。「じゃあいなり寿司屋にしようか、って感じで(笑)」料理が得意な修明さんがお母さんに習う形でマスター。「この辺は季節のものが色々と手に入るので」と、徐々にバリエーションも増やしていきました。現在のメニュー総数は50種類に及びます。

〝味わいを損ねることなく、冷凍保存できないか〟という課題への挑戦。

そんな2人の頭の中にずっとあったのが、〝味わいを損ねることなく、冷凍保存できないか〟という課題でした。きっかけは、お客さんの「遠くの親や一人暮らしの子供に送ってあげたい」という言葉。家の冷凍庫でテストはしてみたものの、パサパサになってしまい、とても食べられるものではありませんでした。「でも、本当に無理なのかなって」。色々と調べてみると、業務用の急速冷凍機を使えば可能のようでした。けれど当然、高価な機械。自腹で気軽に購入できるものではありません。「そういう、補助金みたいなのが使えるんであれば利用させてもらおうかな、と」足柄上商工会と共に補助事業計画を立てていったのです。
導入したのは、急速冷凍機を含めた、いなり寿司を冷凍するための一連の厨房設備や拡張工事。また、厨房工事に伴う隣接の店舗。可能性は大きく広がりました。
まずは、ふだんのいなり寿司をつくりつつ、冷凍化商品も作成。ご本人用のストックに、大切な人への贈り物にと、ついで買いのニーズを呼び起こしていきます。また、もらった人がまた食べたくなった時には、EC販売へも誘える。「いっきにワーっと広がる展開じゃないですけど。じわじわと、でも、着実に喜んでくれる人が増えていくといいな、と思ってます」自分のできる範囲で、目の届くところで、どこまで広げられるか。「調子にのって変なものを渡したら、これをやってる意味がなくなってしまうので」

〝土地の力〟を最大限に利用して、風通しのいい世界をつくりたい。

やりたいことは、自社や自分たちのことだけに留まりません。せっかく手に入れた、真空の装置、急速冷凍の機械。例えば、近隣の無農薬栽培などで頑張っている農家さんに活用してもらうことや、コラボでの商品開発なども思い描いています。「次の年の種代くらいになれば、それはそれでありなんで。そういうこともできればいいなあとは思ってますね」
けれど、野望あふれてというよりは、あくまで〝無理せず〟。「無理したり犠牲にしたりすると、『これだけやってるんだからこれくらいいいだろう』と、それが言い訳になりがちなので。そうすると、嫌々どこかに勤めてるのと変わらなくなっちゃう。なので、何かを犠牲にしてまではやろうとは思ってないです。私たちだけでなく、地域みんなの幸せが１番のプライオリティ。それが広がっていくことが理想ですね」
〝自分たちらしく、また、みんなが幸せに暮らせる〟新天地でつくりあげた、つながりと広がり。暮らしてみて気がついた、この地域の気候や食材のパワー、ポテンシャルの高さ。
「〝土地の力〟を最大限に利用して、風通しのいい世界をつくりたいです」

《本記事は令和4年度伴走型小規模事業者支援推進事業により掲載しています。》

合同会社 空想工房